僕が吸うのは、一日一本。


 本当に、行き詰ったときだけ。


 でも喫煙室にいると、匂いが染みつくらしい。


 それで僕は、こっそり屋上に出て、タバコを吸っていた。体に匂いが残ることはほとんどないし、帰宅前には必ず歯を磨いてから職場を出た。


 そういう努力の甲斐あってか、朔夜は、僕がタバコをやめたと思い込んでいたらしい。僕が帰宅すると、まっすぐ僕の胸に飛び込んできて、まるで小さな犬みたいだった。



 僕はそのことに、ほんの少しだけ、針先で刺した痛みのような罪悪感を持っていたけれど、朔夜のかわいさに言いだせないでいた。


 その小さな罪悪感は、僕の胸の中で風船のように大きく膨らんでいる。そして、弾けるタイミングを密かに計っているのだ。