最後に、僕はあいつの長い腕で殴られて、廊下の端まで吹っ飛ばされて、それでやっと喧嘩が終わった。

 奥歯が欠けたけれど、殴られたことに対して警察に被害届は出さなかったし、たぶん、山城に対しての社内的な処分もなかったはずだ。

 僕はもう会社を辞める直前で、今更どうこうしないでくれと人事の人間にはにきつく言っていたから。


 もしかしたら山城は、その時のことをまだ気にしているのだろうか。処分がなかったことに対して、僕に借りが出来たと思っているのだろうか。


 そうだとしたら、それは迷惑な話だ。


 僕は、もうあの喧嘩についても、欠けた奥歯のことについても何も気にしていないし、彼についても何も思っていない。


 あるのは、ただ彼との過去だけだ。

 できれば、僕のことは放っておいてほしい。



 故障した人工衛星みたいに、やがて落ちてくることは、彼の上にはまずないのだから。