教室に戻ると野中君の姿がなかった。


クラス1の美人でマドンナ的存在の
本田さんこと"本田 真奈美"に野中君の行方を聞いた。
なぜ本田さんに聞くかというと
本田さんはなにしろ野中君にゾッコンなのだ。


私を見る大きな目は栗色で透き通っている。
小さなぷっくりした透明がかったピンクの唇が
開き、小鳥のさえずりのような声で

「葵君なら早退したんじゃないかな?
ほら、カバンないし・・わかんないけどねっ」

細い真っ白な長い指の先には確かにカバンがない。
しかし一つ言っておくと本田さんの最後の
「わかんないけどねっ」は嘘だ。飾りだ。
この美少女の野中情報は120%本当だ。

「ありがとう本田さん」

「ううんっ浜塚さん、葵君に何か用でもあるの?」

目の奥が笑っていない。本心が丸見えだ

「これ、渡さないといけなくて」

「あ、真奈美渡してあげようか?」

「有り難いんだけど、いないなら先生に返してくるので」

「そっか!役に立てなくてごめんね」

「いえ、お気持ちだけで充分です」

「ふふ、またいつでも頼ってね浜塚さん」

「はい、では失礼します」


やっぱり男のことになると女は怖い。
近づく邪魔な女子は私のような女でも
さっさと除去して
どうにかして近づこうとする。


こういう人を敵にまわしたくないと
心の底から思った。


上辺だけの優しさを軽くかわして
職員室へと急いだ。


こんな紙今すぐ捨ててやりたいけど
さすがにそうはいかない。


とりあえずこの憎たらしい紙切れを
熊先生に早く返さなければ。