あたし手に持つリップを見て、言ったんだ。

これは、いつも一緒にいる子たちから“紗雪にはこれが合うよー”なんて、言われて買ったリップ。


「今度、使ってみて」


明日香はこれだけ言って、メイクに戻った―――。


「…… 紗雪?」


「ん、なに?」


「ボーッとしているから。 そんなに、お姉ちゃんの出張って長いの?」


あっ、明日香との出会いを振り返っていたらついボーッとしていたんだ。


「ううん、大丈夫だよ。 お姉ちゃんは数日で帰ってくるし、本当にちょっとボーッとしていただけだから」


「そう?」


小さく首を傾げて、ポーチにメイク道具を閉まっている。


授業が始まるまで、あと少し。


相変わらず、教室のざわめきは留まることを知らない。