「紗雪ちゃん、準備できた?」


「はい、大丈夫です」


荷物を持って…… と言っても、小さなカバン位しか無い。

それを持って立ち上がる。

あたしが立ち上がったのを確認すると、松田さんが玄関のほうを歩いて向かっていった。

その背中を追いかける。


「美春先輩におこられっかなー?」


そう言って、大きくため息を一つ吐く。


玄関を開ける前なので、狭い玄関で二人で立ち止まっている。


「怒られるって…… まだ、10時にもなって無いじゃないですか」


「でも、9時過ぎたしなー」


「お姉ちゃんなら怒らないと思いますよ」


弱音を吐く松田さんって珍しいな。

普段、強気でいるって訳じゃないけど、余裕な感じがしていた。

でも今は不安でしょうがないみたい。


「早くしないとお姉ちゃんに本当に怒られちゃいますよ?」


「…… だね」


10時までにはあたしを帰そうとしているのは明白だった。

まだ、一緒にいたいけどここは我慢だな。

今日、我慢したら明日もまた会えるんだ。


松田さんが何かを決意したのか、玄関のドアを開けた―――。