あたしは、ゆっくり、瞼を閉じる。
「―――」
「…… あっぶねー」
はい?
来るものが来なく、変わりに来たのは松田さんの焦った声だった。
今は松田さんの暖かい腕の中で、あたしは呆然としている。
「危ない、危ない。 危うく紗雪ちゃんにキスするとこだった」
そうだよね。
さっきの流れなら、絶対に松田さんとキスするような流れだった。
だから、あたしも自然と目を閉じたのに……。
「美春先輩から“手を出すな”って言われていたんだ。 キスなんてしたら、美春先輩に絶対怒られる。 ――― いや、明日から紗雪ちゃんに会えなくなりそう」
あぁ、忘れていた。
お姉ちゃんから松田さんはいろいろ約束させられたんだよね。
まさか、その約束がここでも有効だったとは…… 考えてもなかったよ。
「あーっっ。 紗雪ちゃん、マジで好きだから」
キス、出来なかったことは寂しかったけど…… 松田さんはこうやって“好き―――”を言葉であたしに伝えてくれる。
だから、大丈夫。
「松田さん、大好き!」
負けないようにあたしも松田さんに伝えていこう。



