「俺さ、薄々気がついていたんだ」


不意に松田さんが話し始める。


「付き合いだしてから、一緒に過ごすようになって…… 紗雪ちゃん見ていたらなんとなく“コーヒー飲めないのかな?”って思っていたんだ」


“確証はなかったけどね”と言って、少し眉を下げて笑った。


松田さんと付き合いだしてから、あたしは松田さんが出してくれたコーヒーに口を付けるものの、全部を飲みきったことはなかった。

もちろん、一口飲むだけでそこからは一切口を付けることはなかった。

口を付けられなかったんだけど……。


「ミルクティーとか、紅茶なら全部飲むのにね」


「紅茶とはか飲めるんです」


ずっと隠していたせいで少し肩身が狭い。


「そんなに俺に話しづらかった“コーヒーがダメ”だって」


話そうとは思った。

話せば、松田さんはわかってくれるような気もしていた。


でも、やっぱり……。


「話しにくかったです……」


コーヒーはあたしたちの出会いでもある飲み物だから、コーヒーを否定するようなことは言いたくなかった。