深い闇の色のスーツに身を包んだ青年は白い手袋をした右手を胸に置き、ディーノと呼ばれた白銀色の髪の青年に深く頭を下げた。

そんな青年の姿を見つけるや否や、青年の表情は緩み、妖艶なるその唇がほころんだ。


「やぁ、ファルス。今日は起こしてはくれなかったねぇ」


ファルスと言う名の青年を責める様な口ぶりを見せながら、それでもディーノの表情はそのことに関して憤りがあるというわけではなく、どこか相手をからかうようなものだった。

そんな主人の性格を重々承知の上であるファルスは薄い微笑を唇の端に乗せるとやんわりとした口調で「昨夜はずいぶん遅かったようでしたので」と返したのだった。

長年連れ添った相棒に今度はディーノが苦笑する番だった。


「お前の仕事を邪魔せぬよう静かに帰ったつもりだったんだがね」

「お気遣いありがとうございます。けれど、お連れの貴婦人様がずいぶん荒れておいででしたので」

「不味い、不味いとそればかりだからな、困ったレディだよ」


そう言って、ベッドの傍らに立て掛けてある銀色の剣に視線を送った。

ファルスはその視線を追うと、小さく笑み


「貴婦人様は本来美食家であられますから」


そうディーノに返した。