「月(マザー)。満足かぃ?」


背に立つ月に向かって青年は言の葉を投げかけた。

それに答えるかのように、夜の闇が青白い光によって揺れる。


「そう、それはよかった」


フフッとほくそ笑み、青年は月を見上げた。

蒼く輝く月を見上げた金色の瞳は濁りなく輝き、光によって照らし出された彼の姿はこれ以上もなく気高く、美しかった。


闇が彼を慕うかのようにそっとそっと近づいてくる。

青年は己の身をやんわりと包み込む闇夜に、にこやかにほほ笑んだまま身を任せた。


月が黒い雲に再び覆われ、深い闇と静寂がもう一度戻ってくる頃。

あれほど輝くばかりに闇に浮かんでいたはずの青年の姿は、すっぽりと漆黒の闇の中に隠され見えなくなった。


ただ、足音だけは。


闇夜を踊るように駆け、飛んでいく彼の軽快な足音だけは何一つ見えなくなった深い闇の中でも高らかに、まるで音楽を奏でるかのように高らかに。


さらに更けゆく闇の中にこだまし続けていた――