ゆっくりと瞼を押し上げる少女の視界のすぐそこに、真っ白な大きな壁が立ちはだかっていた。

あまりのことに少女は声を上げることもできずにへなへなとそこへ膝をついて座り込んでしまった。

声にならない声でその人物の名を呟いた。


聞こえるはずがないのに。
絶対に聞こえるはずがないのに……!!

けれどその人物はフッとこちらを振り返り、綺麗にほほ笑んで見せたのだった。


闇の中で鮮やかに浮かび上がる銀色の髪と、金色の瞳をした麗しい褐色の肌の青年はそしてこう告げた。


「やぁ、麗しいお嬢さん。一緒に円舞曲(ワルツ)を踊らないか?」


少女は顔を空に向けた。

圧し掛かるような重たい雲たちを押しのけるように大きな丸い蒼い月がほほ笑むように彼を照らしだしていた。


気高く、そして圧倒的な美しさと強さを兼ね備えた吸血鬼の王が確かに少女に向かって微笑んでいたのだった。