男はそんな少女の姿を見ると大仰にため息をついて見せた。

それから仕方ないとでも言うように一歩、また一歩そのまま後ずさりを始めると「あなたが悪いのですよ」と告げた。


「私の言うことを聞けば、まだその命、散らせることもなかったでしょうに。本当に残念です」


暗闇の中へと男の姿が掻き消えていくその様を少女は睨むように見つめていた。


「でもせめて……その血だけは私が頂きましょう。麗しいあなたの純潔な血ならば、さぞ私に力を与えてくれるでしょうからね」


クツクツクツクツ……楽しみだと言わんばかりに男の声が響き渡った。


「では……己の不運と愚かさを噛みしめて散りなさい」


告げられた瞬間。


少女を取り囲む異形のモノたちが待っていたとばかりに喉を鳴らし、にじり寄る。

少女は必死に松明を持つ手を振り回し、それらを牽制した。

けれど、強い風がビュッと吹き、一瞬にして松明を消し去ってしまい、少女は闇に飲み込まれた。

あれほど美しく輝いていた黄金色の髪も、澄んだ常盤色の瞳も闇の中へと掻き消える。

周りの濃密な闇に少女の視界は完全に塞がれ、ただ異常なまでに聴覚だけが研ぎ澄まされる。