そろり、そろり。


這い出してくる異形のモノたちの顔は平坦で、凹凸がなかった。

そののっぺりとした黒い表面の真ん中あたりがパックリと割れると、赤黒い舌が密度の高いどろりとした液体を滴らせながら少女の位置を探るように蠢いていた。

一匹が耐えきれなくなってその舌を伸ばそうとした瞬間だった。


「止めなさい」


と男の声にしては高めのそれが飛んできて、それの動きを制した。

その声に、異形のモノたちはグルグルと不満そうな声を上げたが、それらを無視するかのようにその声の主はそれらを押しのけると少女の前に姿を現した。

その男の姿に少女は完全に心が折れてしまいそうになった。

黒の執事服を着た男を彼女はよく知っていた。

その悍ましい形相は彼女が知っていた頃の男のものとはずいぶんと変貌してしまっていたのだが……