「それにしても、最近はヤツらの数が多いですね」


ファルスはそう言うと、外を見遣った。

それからツカツカとディーノの横まで進むと、カーテンを引き、窓を隠した。

真っ黒なカーテンが日の光を遮る。

そんなファルスの様子に、ディーノはまた微苦笑した。


「今度は何かな?」


顎に手を当て困ったように笑う主にしかし、ファルスは眉ひとつ動かすことなく「殺気を感じましたので」と答えた。


「相変わらず、お前は心配性だな、ファルス」

「そう思われるのなら、少し御身を大事にしていただきたいものです。私にとってディーノ様のいない世界など価値はありませんから」


真顔でそう答えるファルスにディーノは大袈裟に手を広げて見せるとうれしそうに瞳を細めながらも「困ったものだな」と別の意味でため息をついてみせた。


「ウズベクト(この世界)をまだ諦めきれないようだな」


言いながらディーノはカーテンをつまみ持ち、その隙間から外をのぞき見る。

崩れたレンガの屋根の上に黒い影がちらちらとこちらを窺うように這い出てくる。

日に照らされた影達には瞳も、そして鼻も口もない。

ただ真っ平らな黒い顔がまっすぐにディーノたちのいる方向を見つめていた。