悲痛な絶叫が、深い深い闇の中で響いていた。

叫び声が闇色のカーテンを引き裂き、赤い斑点が闇色の絨毯を濡らす。

闇色の中に浮かぶ赤い斑点以外には何一つ見えない漆黒の空間。

見上げた空は同じく闇を抱え、星ひとつ見つけることができない。

しかし……それは次の瞬間その色を塗り替えられる。

漆黒の闇にゆっくりとゆっくりと、まるで雨戸を開けるかのように光が筋となってやってくる。


青白い光。


刺すように鋭く、触れたら凍ってしまいそうなほど冷たい。

光り輝く翼を広げた蒼い月がゆっくりとその姿をのぞかせる。


大きな丸い月。


凛と輝く蒼い月の出現で、空を覆う禍々しい黒い雲たちはまるでその姿に脅えるかのように後退し始めた。

赤レンガの崩れた建物たちが並ぶ、しんと静まり返った街の屋根が徐々に月の光で姿を現した。

その屋根の上に座る影に蒼い月はまるで愛おしい者を抱くかのように、光の翼で触れていく。


蒼い月の光に。
誘われるようにそよぐ冷たい風に。


銀色とも白色とも思える短い髪がさらりと揺れる。