「なぜですか?」


私が優しく聞くと、兄上は顔を歪めた


「いくら尊皇攘夷派の浪士たちが騒ぎを起こしているとはいえ、これは人質も同然……和宮さんにも、申し訳なかろう……」


兄上は優しすぎる



いつだってそうだ



だから、きっと将軍と言う立場を背負うには優しすぎるから、誰かに弱音をはくでもしなくてはやっていけないのでしょう


だから、私は兄上が優しい分、将軍にふさわしい判断に導かなければいけないと思う



私はいつになく兄上に真剣な眼差しを送った


「兄上……これは、貴方だけの問題ではないのですよ?これは、お国や、国民皆の安否や生活もかかっているのです」


私がいっても納得できない兄上は「でものぅ……」と言葉を濁した


そんな兄上を見て、「はぁ……」とため息をつき、今度はまるで幼い子供をあやすように優しく言った



「そんなに和宮様に申し訳ないとお思いならば、その分だけ愛すればいいじゃないですか……──いつか、和宮様に、この人と結婚してよかったと思って貰えるよう、精一杯愛すればいいんです」



すると、兄上は何かを決意したらしく、迷いのない瞳をしていた


「そうじゃ!!そうすればいいのだ!!……風珱には助けられてばかしじゃ…」


「いぃえ……兄上も自分の立場をきちんとお考えくださいね……──」



私はいつまでもこうして兄上を導けないから


私にとっての明日が、いつ最後になるか分からないから……───