「ええっと……。連絡先はここに書いてある通りで間違いないですね?」

形式的に尋ね、彼女が頷くのを見届けてから、

「お隣さんに注意しておきますね」

そう伝え、ニンと無理矢理に営業スマイルを張り付けた。



「ええ、お願いします。その時は是非、うちに寄ってくださいね? お礼にお茶をご馳走しますから。ねっ? きっとよ?」

言って彼女は、A4用紙を持つ俺の右手にそっと触れた。


ムッチムチに膨れた指。その左手薬指にはプラチナリングが食い込んでいて、酷く苦しそうに見えた。

余計なお世話だろうけど。



「はぁ……。あっ、いや、お気遣いなく」


わざわざお隣さんちまで行かねぇし。電話で済ますし、そんなもん。

――とは言えない俺。




平和な日常が戻り、まるで何事もなかったように時は流れる。


坂下はもちろん実刑をくらったけど、睦月くんは犯行に関与してはいるものの、直接手をくだしてないってことで、執行猶予がついた。


現在の睦月くんは、中古品も扱う玩具のアウトレットショップの開店準備で忙しく、あの日の俺への告白は、当の本人はどうやら忘れているっぽい。


なんでも坂下たちと幼い頃よく語った夢が、玩具店を四人で経営することだったらしい。