その瞬間、坂下は目を見張る。そんな彼を見て龍一は、ははっと小さく声を漏らして笑った。そうしてまた、一方的に続ける。


「お前がこうして生きてるのは、誰のお陰だろーな? そいつに感謝しないとな? 少なくとも、俺じゃないのは確かだ」


「感謝なんか……」

苦々しく吐き出して、坂下は視線を落として俯いた。


そうして、ぼんやりと自分の足元を眺めながら続ける。

「あの時……昔のこと思い出した。あいつらとつるんで悪さばっかしてたこと……。クソみたいな暮らしだったけど、楽しいこともあったなぁなんてよ」

そこまで言って坂下は、ハッとしたように顔を上げ、

「……って、いつまでこんなことしゃべらせとくんだよ? さっさと止めろよ、てめぇはっ!」

谷口に向かって悪態をついた。



「何でもかんでも腹ん中にため込むのは良くねぇ。吐き出したい時に吐き出せよ」

やけに神妙な面持ちで谷口は返す。


「まっ、残りは署でゆっくり聞くわ」

ニッと悪戯っぽく笑って言い、坂下の背中をポンと軽く叩いた。



再び歩き始めた三人。その後ろ姿を黙って見送っていた龍一だったが、

「坂下!」

急に思い立ったように呼び止める。