ロシアンルーレットⅢ【アクションコメディー】

「まぁいいや」

笑いを噛み殺しながら坂下は続けた。


「てか俺、殺さねぇよ?」


「えっ?」

期待に胸を膨らませながら顔を上げれば、坂下は穏やかに微笑んでいる。



「ならさっさとその、ポケットん中に入ってる物騒なもんを、こっちに寄越せよ」

俺がそう言うと、坂下はジャケットのサイドポケットに再び左手を突っ込んだ。


そこから抜き出した何かを俺に見えるようにかざし、

「これのことか?」

と、何でもないことのように涼しげに聞き返す。



坂下が手にしているのは、試験管みたいな形の小さなガラス容器。その口は蓋でしっかり閉じてある。


いかにも、『ウィルス入ってます』的なそれ。



「そうそう、それそれ。早くこっちに寄越しなさい」


坂下との距離は10メートルほど。かなり離れてはいるけど、言いながら右手を差し出してみた。



「どうして?」


「だってもうそれ、必要ないだろ?」


「お前ってほんっと思い込み激しいよな? 自分の価値観だけで物事見んのはやめろ。それでよく刑事が務まんな?」


痛いとこ突かれて、心が折れそうになる。

だがしかし、そんなのお構いなしに坂下は続けた。


「殺さねぇよ? 俺はな? コイツを生かすか殺すか……それを決めるのは俺じゃない、神だ」


視線を上げて遠い目をした坂下は、恍惚とした表情を見せた。



コイツの頭ん中、イっちゃってんな。