「怪我人ってどこだよ? 全身の擦り傷と右肩打撲だろ? 医者が全治3時間っつってたわ。今――」


手首に巻きついている、ゴッツイ腕時計に視線を落とす。


「15時26分だから、もう4時間以上経ってるな。よって、お前の傷は既に完治。呑気にいつまでも寝てんじゃねぇわ、バカ。乃亜に無駄に心配かけやがって」


「『無駄に』って何だよ? 旦那の心配すんのは当たり前だろ? それに全治3時間って、ぜってぇ嘘だし。ここの医者はヤブか?」


「てめぇ、ゴニョゴニョゴニョゴニョ、屁理屈ばっかこねやがって。ほんとめんどくせぇなぁ」



「もうやめて、りっくん」


天使の声が悪魔の暴走を止めてくれた。


てか、多恵ちゃんも居たのね。


俺の視界を谷口さんの見るも不快な顔が占拠していて、全く気付かなかったし。

野獣め、遠近法を巧みに利用しやがって。