仮縫いは本縫いに入る前の作業。
ただ手で縫うだけであって、難しいことなど何一つ無いはずだ。

しかも技術科の三年ともなればそんなことは容易いはず。

しかし隼は雲雀に頼んできた。


「先輩・・・仮縫いくらい自分でやってくださいよ・・・。」


雲雀は仕方なく持っていた大荷物を下ろし、椅子に腰掛けた。
隼は布を渡す。


「もうパターン通りに裁断してあるから難しいことなんて無いやろ。」


既に裁断された布を渡され、雲雀は渋々受け取って裁縫道具を出した。


「あたしなんかがやるより、先輩がやった方が早いんじゃないですか?」


隼は無言でテーブルの上にハトロン紙を広げた。


「俺、こっちやらなあかんから。」


成る程。
作図は自分でやって、面倒な仮縫いは他人に押し付けるという魂胆らしい。


「あたし終わったらすぐ帰りますからね。」


雲雀が念を押すように言うと、隼は見向きもせずに「ああ」と生返事をした。




 荒々しく荷物を置いて、自分の裁縫道具を広げてシーチングを縫い始める。
けれど雲雀は納得がいかなかった。

苛立ちながらも隼の書くパターンを横目で見る。



雲雀は目を点にした。




黙々と動かすその手から生み出される作図は今まで見たどの作図よりも綺麗だった。


緻密に計算され、より細かく、より美しく書かれた線の集合体に雲雀は心を奪われた。