「ねー今日は一緒に帰れるでしょ?
カラオケ行こうよーカラオケ」

鼻にかかった甘えた声で美佳が右腕にしなだれかかってくる。

「そーよお、行きましょうよーヒロ」

さらに左腕に、いつ近寄ってきたのか馬鹿ヤスが気持ち悪い猫なで声を出しながら、まとわりついてきた。

「ねーヒロー」

右腕にぶつかる巨乳。

「ねーヒロー」

左腕を貫く、尖った顎。

「ねーねーねー」

右左に激しく揺さぶられ、ぐりんぐりんと頭が回る。
だんだん気持ちが悪くなってきて

「だあああ!! 」

勢いよく二人を振り払った。

「うるさい!!
カラオケでもどこでも勝手に行けば………っ」

額に青筋をたてて叫ぼうとした瞬間、

「きゃあああああ」

黄色い悲鳴が俺の声をかき消した。

教室の入口に目を向けると、案の定ムッツリ松宮が胡散臭い爽やか笑顔で現れたところだった。

取り囲む女の子たちをさりげなくかわしながら、森口へと近づいていく。

「あら、また松宮先輩が来てるの?
なんで、森口に会いにくるのかしら?
意外な組み合わせよね」

美佳がめげずに、俺の腕に絡まりながら、首を傾げた。

「………」

それには答えず、じっと松宮を睨み付ける。

視線に気づいたのか松宮が振り返った。

一瞬、微妙な空気が俺達の間に流れる。

松宮は直ぐに緊張をといて、柔らかな笑顔を浮かべると、身体を戻して森口へと向き直った。