もしかしたら


いや、でも。


混乱したまま、頭を抱える。


そのまましばらく立ち上がれないでいた俺の耳に、

ざっと靴が砂をする音が届いた。

人の気配を感じて、振り返る。

まず、嫌味なくらい長い足が視界に入り、さらに上に目線を上にあげると、一番見たくない顔が飛び込んできた。

「……ムッツ……松宮」

顔をしかめて、立ち上がる。

「ムッツ?」

きょとんと首をかしげている松宮に、俺は冷たい視線を浴びせかけた。

「お前、ここで何してんの?」

偶然来たにはタイミングがよすぎる。

「ん?あ、ごめん。
二人が追いかけっこしてるの見かけてね。
気になって後をつけて、ずっと話を聞いてたんだ」

にっこり笑いながら、松宮はさらりと黒い髪をかきあげた。

盗み聞きをカミングアウトする松宮は、無駄に爽やかで。

俺は引きつりながら、さらに尋ねた。

「………全部見てたのか?」

森口にした、あんなことやこんなことを?

「はは、なるべく見ないようにしてたよ」

なんの救いもない松宮の言葉に、ガクッと肩を落とす。

「趣味悪ぃな」

羞恥と怒りに顔が熱くなって、ガシガシと髪をかきむしった。

そのまま、片手をポケットに突っ込んで、ズカズカと松宮の横を通りすぎる。

「もう、気づいたかな?」

「あ?」

すれ違う瞬間、発せられた松宮の言葉に立ちどまった。

「…わかったんだろ?」

「……何がだよ?」

主語のない松宮に、イライラと聞き返す。

「わかっているんだろ?」

「だから、何がだよ?」

松宮はすっと笑顔を引っ込めて、真面目な顔で俺を見た。

「カンナちゃんの、正体が、だよ」