………は?

森口の言葉が消化しきれない。

「……き、消えるってなんだよ?」

はっと乾いた笑いをもらしながら、馬鹿にしたようにそう返した。

森口の涙は真剣で。

冗談を言っているワケではないことはわかっている。

それでも、その言葉は現実ばなれしていて。

俺を言い様もなく不安にさせた。

「森口?」

泣いたままの彼女に近づき手を伸ばす。

森口はハッとしたように顔を上げて、ひらりと蝶のように、身をかわした。

俺たちの間に距離が開く。

「……だから、昨日……アンナが言ったじゃないですか」

彼女はまっすぐ俺を見上げて続けた。

「森口カンナは、………どこにもいないんだって」

「は?
……え?
も、森口!?」

森口が身を翻す。

そのまま彼女は振り返ることなく走り出した。

〜世の中は夢か現か、あってなき蝶となりしか現にて、蝶がなりしか夢かとも。

後ろ姿に、赤い着物の残像が重なる。

くるくる踊る二匹の蝶。

俺は動けないまま、呆然とたちつくした。

『君ならわかるのかな』

ムッツリの言葉がよみがえって。

頭を押さえ、ふらりとその場にしゃがみこんだ。