ゆっくり立ち上がり、制服の砂ぼこりを払う。

そのまま、森口に背中を向けて歩き出そうとした俺を引き止めたのは、

「ち、違いますっ!
か、片桐くんは、め、迷惑なんかじゃありませんっ! 」

焦ったような森口の声だった。

足を止め、勢いよく振り返る。

勢いつきすぎて、一周したが、まあそれはどうでもいい。

俺は未だにうつむいて泣いている森口を凝視した。

この、ダサ眼鏡。

迷惑、じゃないって。

い、言ったよな?

え?てことはなんだ?

つまり………え?

いや、まさか。

……え?

「か、片桐くんは……すごくナウいし、……ナイスガイだし……す、素敵だなって思います」

……いや、待て。

ナイスガイってなんだ?

コイツ、相変わらずホメ言葉も昭和くさいな。

「……で、でも。
わ、私はだ、ダメなんです………」

森口が、ひっと小さくしゃくりあげる。

「ダメって、なんだよ?」

ワケのわからないことを言い出す森口に、なるべく優しい声で尋ねた。

ここで少しでもイラついて、ビビらせたら、コイツの本心は一生闇の中だ。

「……わ、私は、いずれ、き、消えてしまう、から。
だから……だから、誰も……好きになったら、ダメなんです」