「うふふヒロ
おはようのちゅー………うっ………」

おもいっきり肘をヤスの腹に打ち込む。

そしてすかさず腕を捉え、

「朝から気持ち悪いことしてんじゃねー!!」

「ひでぶっ」

鮮やかに背負い投げをくらわせてやった。

「お前はすでに死んでいる」

アスファルトの上にうずくまる、屍なヤスを足蹴して、ペッとツバを吐く。

パンパンと制服をはたいて歩き出そうとした俺は、唖然とした顔でこちらを見ている森口に気づいて、目を見開いた。

「森口!!」

思わず名前を叫んで、ずんずんと大股で近づく。

「ひぃっ」

森口は怯えたように身体をすくませ、すぐに校舎に向かって歩き出した。

恐ろしく早い競歩で。

「待て!
なんで逃げんだよ!?」

早足で森口を追いかける。

「も、申し訳ありません〜。許してくださーい」

何故か謝りながら森口はスピードをあげ出した。

「はあ?
ちょっと待てって!」

二人ともどんどん足を早めていく。

終いには本気の追いかけっこを始めた俺たちを他の生徒たちが、びっくりしたように見ていた。

「ヒロ?
どうしたの?」

途中、美佳とその仲間たちの横を通りすぎたような気がしたがどうでもいい。

俺は無心に森口を追いかけ続けた。

捕まえたい。

どうしても。

逃がしたくない。


不安なんだ。

『森口カンナなんて子、家にはいないわ』

なぜか、森口が俺の前から消えていなくなりそうで。


どうしようもなく不安になるんだ。