え?誰だこの子。

あのフワフワ美少女は一体どこに?

なんて混乱している間にも夏の締め上げは、どんどん力を増していく。

てか、これヤバいだろ。

むちゃくちゃ苦しいぞ。

このままじゃ俺、オチる。

いやむしろ、死ぬ、かも。

「あ、会い…たい、です。うぐっ
あ、会わせ、て、くだ、うっ、さ……う」

息も絶え絶えにそう答えながらギブアップを示すように夏の手を叩く。

彼女はしばらく俺を観察してから満足げににっこり微笑むと、ポイッとゴミを捨てるように手を離した。

「じゃあ、片桐先輩は裏門に回ってくださいな。
後で夏がこっそり開けてさしあげますからね」

口許に人差し指を立てて可愛らしくウインクし、くるんと華麗に身を翻して、藤森家に入って行く。

その後ろ姿は花のように可憐だったが、今しがた花畑を歩く臨死体験をさせられた俺にとっては、恐ろしい悪魔にしか見えなかった。

女の子は見かけで判断するもんじゃない。

花井夏の小さい背中を見送りながら、

俺は改めて胸にそう刻みこんだのだった。