「……ムカつく」

そう、呟いた途端

「おやおや。
ライバル出現ですかい?」

どこから現れたのか、ヤスが俺の背後にピタリと張り付き、耳元で囁いた。

「ライバルは松宮か。
ふふ、ヒロ、終わったな」

気味の悪い笑顔を浮かべながら、削りこんだように尖った顎を俺の肩にのせてくる。

「……痛い」

俺はぐっと指を握り込んで拳を作った。

痛い。

なんだか、もう。

あちこち痛い。

「どけ」

イライラが沸点に達した俺は、ヤスの顔面を容赦なく裏拳でドツいた。

「うおおお!」

顔を両手で覆いうずくまるヤスに、ペッと唾を吐きかけ、松宮と森口が立つ、反対のドアから教室を出る。

乱暴に閉めたドアが大きな音をたて、驚いたように森口が俺を見たが、俺は不機嫌に顔をしかめたまま彼女に背を向け廊下を歩き出した。