キミは嘘つき蝶々

「………森口?」

どうして、そう呼んでしまったんだろう?

彼女は眼鏡もかけてないし、だっさいミツアミじゃない。

きれいに結い上げた髪に、着物姿。

少し化粧を施した顔は無表情で、冷たい印象すら受ける。

森口とはなにもかも真逆なのに。

俺には彼女が森口に見えた。

自分でもわけがわからないけど。

「宗也さん、夏。もうお稽古が始まりますよ」

彼女は俺を一切無視して、松宮と美少女に声をかけ背中を見せた。

「森口?」

思わず声をかける。

ふと、彼女は立ち止まり俺を振り返った。

「……どちらさま?」

不愉快そうに俺を見る目は森口とはやっぱり別人だ。

固まったままの俺を不審げに一瞥して、彼女は門の中に姿を消した。

「あ、待ってアンナちゃん!!」

夏と呼ばれた美少女があとに続く。

……アンナ?

やっぱり別人か?

姉妹、とか?

彼女の立ち去った門を見上げながら、ぼんやり立ち尽くしたままの俺の肩にぽんと手が乗った。