森口のことで頭が埋め尽くされて、前方不注意だったのか。

何歩も歩かないうちに、どんと何かに肩がぶつかった。

「きゃっ」

高い女の声に、慌てて顔を向ける。

赤い着物を着た女がバランスを崩して、よろよろとよろめく姿が見えた。

慌てて手を伸ばし支える。

「悪い、大丈夫?」

抱き抱えたまま顔を覗き込むと、彼女は白い頬をポッと染め、恥じらうように俯いた。

「ありがとうございます。大丈夫ですわ」

はにかむ顔は綺麗に整っていて、かなりレベルが高い。

上流階級のお嬢様。

そんな感じだ。

彼女を立たせて、身体を離すと、すぐ近くに男が立っているのに気付いた。

じっと、まるで観察でもするかのように、俺を見てる。

黒髪の短髪に切れ長の目、涼しげな口元。

爽やか系、イケメンってとこか?

まあ俺には劣るけど。(←あくまでも主観)

年はおそらく少し上、だろう。

やはり着物を着ていて、俺の視線に気づくと穏やかに微笑んだ。