「ヒロぉー? 何見てんの?」

ひらひら目の前で赤い爪が揺れる。

頬づえをついて、ぼんやりしていた俺は、はっとして顔を上げた。

学校だっていうのに、派手な化粧をした美佳が訝しげな顔で俺を見下ろしていた。

「えらく真剣な顔で見つめてたけど、なにかあるわけ?」

俺の視線を辿り、美佳が首を巡らせる。

窓際の席で、次の時間割を揃えている、森口カンナの後ろ姿を捕らえ、彼女は眉を寄せた。

「……まさか、森口見てたの?」

ぎくりと心臓が縮み上がった。

変な汗が額に浮かび、ダラダラと顔を伝う。

「あ、あほか。そ、そんなわけないだろ」

足を高く組み、「あはは」とわざとらしい笑い声をあげて、手を拡げてみせる。

拍子に肘に当たった筆箱が床に落ちて、ガシャンと派手な音を立てた。