「何の用だよ」

不機嫌全開でそう問うと、

「いや、今日はカンナちゃんに……」

きょろきょろと松宮の視線が教室を移動する。

「森口は教室にはいないけど?
何の用だよ」

食い下がる俺に松宮は困ったように苦笑いを浮かべた。

「片桐君。
ちょっと話そうか」

教室からビンビン感じるクラスメイトの好奇の視線を避けるように、松宮は俺を促して歩き出した。

「え?行っちゃうのヒロ?」

「え?チャウチャウちゃうの?ヒロ」

俺は、しつこい美佳と訳のわからないヤスの手を振りほどいて、

「うるさい」

と冷たい目で威嚇すると、むっつり松宮のあとに付き従った。

「どこ行くんだよ」

松宮の背中に問う。

「理科準備室かな。あそこなら静かに話せ……」

「そこだけは嫌だ」

ホルマリンの臭いが鮮やかによみがえる。

松宮の提案を苦々しい顔で遮ると、松宮は少し考えて、階段を登りはじめた。