小さな手をぐっと体の横で握りしめる。

「私は、宗也さんが好きだって、大声で言えます!!
あなたみたいに、カッコつけたふりして、踏み出すこともできずに、ただ逃げ回ってるヘタレ野郎とは違いますわ!!
あなたみたいに中途半端な人、カンナちゃんを好きになる資格なんてない!!
カンナちゃんのことは、諦めてください!!」

いらだちをぶつけるように夏はそう叫んで、身をひるがえした。

がたがたと机にぶつかりながら、理科準備室のドアを開ける。

ばあああんっと勢いよくドアを閉めて廊下に飛び出すと、彼女は足音を立てて走り去って行った。


俺は呆然と立ち尽くし、彼女の消えたドアを見つめた。

『踏み出すこともできずに、ただ逃げ回ってるヘタレ野郎』

今までで一番、ぐっサリと刺さった言葉だった。




『森口カンナが好き?』

レイナの言葉に答えられなかったのは。

本当に森口と向き合いたいから?



……いや、違う。

俺はただ、怖かったのだ。


森口が恋した相手が自分ではないと

レイナに知らされるのが……。



『森口なんかに振られたら、カッコ悪い』



……でも


今の俺はどうだろう?

カッコばかり気にして。

何もできず、ただ逃げ回っている俺は?