「婚約って、誰とだよ?」

ようやく出た声は自分のものと思えないくらい掠れていた。

頭に空気が回らなくて、ぼんやりと霞がかかっているように、視界が歪む。

こんなにショックを受けている自分がなおさらショックで。

やたら早い鼓動を打ち始めた心臓を押さえた。

「相手なんて……」

ふっと夏がひきつるように笑う。

その目が悲しげに揺れた。

「本当はわかってらっしゃるんじゃないですか?」

そうだ。わかっている。

きっとあいつしかいない。

「……松宮……かよ」

俺の言葉に、夏はぐっと唇をかみしめてうつむいた。

「花井……まさか、お前」

瞬間的に理解した。

そうか。

夏は、むっつり野郎の松宮が好きなんだ。

俺の目に同情の色が浮かんだのを察したのだろう。

夏は、きっと俺を睨みつけて、口を開いた。

「あなたとは一緒にしないでくださいませ!!」