力いっぱい否定する俺に、夏は疑わしげな表情を浮かべて、長い黒髪を後ろに流した。

「………では、先輩がカンナちゃんの周りを薄汚いストーカーのようにうろうろしていらっしゃるのは、単に先輩が博愛主義者で八方美人のゲス野郎だからではないとおっしゃるんですね?」

なんか痛い。

言葉が痛い。

丁寧な分、グサグサ痛い。
密かに傷つく胸を抑えながら、

「………八方美人は否定しないけど、別に博愛主義者とかじゃない」

ぼそぼそとそう答えると、夏は両指を胸の前で組み合わせ、真剣な表情で俺を見上げた。

「では。先輩はカンナちゃんにお熱だと思ってよろしいんですね?」

「お熱?」

お熱ってなんだ?

「つまり、カンナちゃんを好きなのかと聞いているんです」

「え?」

ずいっと一歩近づいてきた夏から一歩後退する。

夏の言葉を理解した途端、軽く頬が熱を帯びた。

「そ、そんなの。あんたには関係ないだろ」

赤い頬を隠すように、そっぽを向いて答える。

途端、

「ああああん!?」

狂暴化した夏が、ヤクザみたいな凶悪な顔つきで俺の襟元を掴みあげた。