「ちょっとヒロ!
何なのその子!?
待ってよ、どこ行くのよ!」

「やーんヒロ。
浮気しちゃイヤー
ヤス、泣いちゃう」

うるさい美佳をあしらい、ウザキャラを引っ張るヤスを蹴りとばしながら、夏に続いて教室を出る。

お互い目立つ容姿のせいか周りの生徒たちの注目を集めたが、無言のまま廊下を歩き、たどり着いたのは、三階の奥まった場所にある理科実験室だった。

そこは確かに人気はなく、内緒話するにはうってつけの部屋ではあったが。

カエルやヘビのホルマリン漬けや、不気味な人体模型が薄暗い部屋に整然と並んでいて、妙に落ち着かない。

キョロキョロと辺りを見回していると、夏がゆっくりと振り返って、上目遣いで俺を見た。

「………」

それは、媚びとか可愛らしさを一切排除した上目遣いで。

なんかむやみにギラギラしてるし、白目むき出しだし、………はっきり言って怖い。

長い黒髪を頬に一筋垂らしている様も、まるっきりホラーで、彼女に対する更なる恐怖が募った。

「………片桐先輩」

「はい!すみません!」

地の底から響くような夏の声に思わず直立して、謝る。

情けないが一種の条件反射だ。

そんな俺を、夏は胡散臭げに一瞥して、ため息を吐き出した。

「先輩はプレイボーイでいらっしゃるのね」

「は?」

夏の問いかけの意味がわからず首を傾げる。

しかし、プレイボーイって。

いまだに使うヤツいたんだな。

「先輩のウワサいろいろ聞きました。
クラスメイトの男女に二股をかけているとか」

「はあ!!!???」

「最近は小池先生まで狙っていらっしゃるらしいですね?
恋愛は自由ですけど。
いささか自由すぎでいらっしゃるんじゃないかしら?」

「ちょっ待て待て待て待て!!!!
それは、どこから仕入れた情報だよ!!
ガセだから!
全部ガセネタだから!」