あの日以来。

松宮と森口は頻繁に早退するようになった。

松宮が教室に現れて、連れだって帰って行く。

「どうしてあの二人が一緒に早退するんですか!?」

松宮のファンの女どもに、理由を問いただされた担任の小池は

「ま、なんと言うか家庭の事情だ。
家庭には色々あるんだ」

と、曖昧に答えた。

「色々ってなんですか?」

と食い下がれば。

「色々は色々だ。
あれやこれやだ」

と、色々の詳細については一切語られず。

「まさかあの二人、付き合ってるんじゃない?」

「や、あの松宮先輩とダサ森口じゃあり得ないでしょ」

「でも、もしかしたら松宮先輩ブス専かもしれないじゃん」

「いやあ!そんなの!」

と、なんだか森口にとっても俺にとっても微妙な憶測が飛び交うようになった。

そんな頃、

「お話がございます」

彼女は突然俺の教室に現れた。

恥ずかしそうに教室のドアの影に立ち、白い頬を赤く染めながら、潤んだ目で俺を見上げる。

本性を知らなければ「まさか、告白?」なんて誤解してしまっただろう。

でもそれは、ない。

コイツには必ず裏がある。

「なに?
ここで話せないわけ?」

面倒くさくなって、ぶっきらぼうにそう尋ねると、

「チッ」

夏は誰にもわからないようにドアで顔を隠して、小さく舌打ちした。

前髪の間から一瞬覗いた目が、「殺す」と言わんばかりにギラギラひかる。

「………どこでもお供します」

俺は反抗的な態度を改め、彼女に従うことにした。

無駄な争いは避けたい。

命は大切にせねば。