レイナがじっと俺を見上げる。

その澄んだ目は森口そのもので。

思わず引き込まれそうな感覚を覚えながら、俺は慌てて目をそらした。

うまく。

息が出来ない。

「……別に。好きじゃねーし」

照れ隠しに不貞腐れた顔でそう言いながら髪をかきあげる。

正直。

好きだって気持ちを、森口の別人格に伝えるつもりはなかった。

この恋がどっちに転ぶとしても、俺が向き合いたいのは森口で、その間に余計なものを介在したくない。

変な風に自分の気持ちが森口にバレるのを避けたかった。

「…………そう。
ならいいわ」

ポツンとそう答えて、レイナは俺の手から腕を引き抜いた。

立ち去る背中は完全に俺を拒絶していて。


俺は呼び止めることも出来ずにただボンヤリと彼女を見送ることしかできなかった。






結局。

俺は何も見えてなかった。

『自分の見たいものしか見ない』


彼女のその言葉通りに。


ただ自分のことだけに必死で。


散りばめられたサインを。



全部、見逃したんだ。