「お前、昼休み見かけないけど、いつもここにいんの?」

本棚から本を一冊抜き出してパラパラめくる。

考えてみれば

彼女はいつも皆から一歩引いていて。

一人でいることが多く、親しい人間がいるようには見えなかった。

以前は大人しくて暗いからだろうと、深く考えもしなかったが、

今となっては彼女が意図的にそうしてきたのだと分かる。

もし突然いなくなっても、誰にも気付かれないように。

誰も悲しまないように……。

「森口?」

黙ったままの彼女に視線を向ける。

彼女は真っ直ぐ俺を見上げていた。

たちこめる本の薫りと、そよ風に微かに揺れる黄ばんだカーテン。

窓の外から流れてくる、騒がしい笑い声や、ボールの音が遠くに聞こえる。

本棚に囲まれた、この空間だけが、やけに静まりかえっていて。


俺は彼女と見つめあいながら、まるで別世界にいるような妙な気分に陥っていた。