『引き金になったのは、多分、誘拐事件なんだ。
アンナちゃんが事件の際に受けた心的外傷から逃れようとした結果、解離して現れたのがカンナちゃんなんじゃないかな。
事実アンナちゃんは事件の記憶を失ってるし、警察の事情聴取に対応したのはカンナちゃんだったしね。
ただカンナちゃんもあまり多くを語らなくて。
犯人も犯人の目的も。
アンナちゃんに何があったのかも、未だに分からずじまいなんだ』

藤森アンナが消え、脅迫状が届いて2日。

親族や一門が騒然とする中、藤森アンナは一人で帰ってきたのだと言う。

彼女には事件の記憶はなく、変わりに現れた森口も、犯人に関してはほとんど黙秘を貫いた。

『僕としては、二人を共存させたいんだ。
カンナちゃんはアンナちゃんのガーディアンだからね。
辛いことも悲しいこともカンナちゃんが引き受けてくれるから、アンナちゃんはアンナちゃんでいられるんだ』

松宮は、今の状態でいることが、藤森アンナの精神の安定を生むのだと何度もばあさんに訴えて

ばあさんも不満を残してはいたものの、しばらくは森口の存在を認めていたらしい。

なのに

最近になって急に、森口を消すことに躍起になりだしたのだとか。

森口のイラストの下に『ガーディアンと書き込む。

そのまま、乱暴にその字を塗りつぶし、シャープペンを転がした。