三度目は遮断機の下りる線路の上。目前に迫った列車の光の中、男は優衣の前に現れこう言った。

「いい加減にしろ。お前は死ねないと何度言えばわかるんだ」

 眩しい光が視界を奪う中、男の漆黒の眼だけがハッキリと映った。

「この手段は使いたくなかったが仕方があるまい。イガラシユウイ、お前と契約する」

 男がそう言った直後、優衣の中で変化が起こった。これまでの自分から生まれ変わるような不思議な感覚。体中の細胞が作り替えられていくようだ。その感覚に支配されている中、突然強い力で手を引かれ、優衣は線路の外に引きずり出された。自分を死へ誘ってくれるはずだった電車はむなしく眼前を通り過ぎる。浴びせられる罵倒のBGM。優衣の耳にはもう何も入ってこない。優衣はその場から逃げるように駆け出した。

 ネオンが輝く夜の街を走りながら、優衣は男が言った言葉の意味を理解した。あの細胞が作り変わるような感覚は自分が自分ではなくなってしまったことを意味していたのだ。もう以前の五十嵐優衣は居ない。今までの自分ならばもうとっくに体力が底をついているはずだ。それなのにいまだに走り続けている。そしてまだ走り続けることができることも理解している。優衣はもう人間ではなかった。