彼女の名は五十嵐優衣(いがらしゆうい)。高校2年生。死神と契約した者である。

 優衣は幼いころから頭が良いと近所で評判になっていた。本人も自覚していたし、両親が彼女の才能に期待するのも必然だった。両親の期待を背負い、優衣は有名私立中学の受験に挑んだ。だが結果は不合格。この時点で彼女の両親の期待は全て4歳離れた妹へ注がれることとなる。
 両親に見放された優衣は、高校に受かればまた自分を見てくれるのではないか、その一心で勉強に打ち込んだ。しかし優衣は高校受験でも失敗してしまう。これで優衣は両親から完全に見限られてしまったのである。
 優衣は滑り止めだった高校に通いながら、家でも学校でも空気のように誰とも言葉を交わさずただ淡々と同じ毎日を繰り返していた。そんな優衣を支えていたのは妹が受験に失敗する可能性だった。妹も受験に失敗すればいいんだ、その思いだけが優衣を生かしていた。ところがこの春妹はめでたく有名私立中学に通うことになった。

 数ヶ月前、妹が合格したことを知った時、優衣は手首を切り一度目の自殺を図った。その時目の前に男が現れたのだ。自分は死神だと言うその男は「イガラシユウイ、お前の死期は今ではない。死を望んでも無駄だ」と言った。男の言う通り優衣は死ねなかった。血を流し意識を失っている優衣を偶然母親が発見したのだ。死ぬこともできず、母親からは妹の邪魔になるようなことはするなと言われ、優衣は絶望に打ちひしがれていた。
 それから幾日も経たないうちに、今度は睡眠薬を使い自殺を図るも、通りすがりの人に発見され大事に至ることはなかった。その時も男が現れ、死を否定された。無駄なことだと。それでも優衣は死ぬことを諦めなかった。