威嚇するような鋭い目付きに光は怯んだ。少女はその一瞬を見逃さず、光に向かって手を翳すとすぐに言葉を発した。

「対象を拘束」

 少女が言葉を紡いだ直後、黒い光は見えない鎖に縛られ、一ミリたりとも動くことができなくなった。それを見て少女は「上出来!」と言いながら石段を登り始めた。その間も光は見えない戒めから抜け出そうと試みるが、全て無駄な抵抗に終わる。気がつくと少女は光の一歩手前まで来ていた。

「よくも人を振り回してくれたわね」

 光の手前で足を止めた少女は腰に手を当てて光を覗き込んだ。よく見ると黒い光の正体は人の形をしていることが分かる。ただ人と明らかに違うところが数か所。掌に乗るほど小さいこと、尻尾のようなものが生えていること、背中から黒い羽根が生えていることなど、どれも人間とは違う。それもそのはず。この小さな黒い光の正体は悪魔なのである。

「君は下級、その中でも下の方の悪魔ね?無断で他の世界に干渉するのはルール違反だってことはわかってる?」

 悪魔は柵のせいで動くことはできないが、かろうじて動く目で敵意を向けてくる。捕まったことに腹を立てているのだろう。それもただの人間である少女に、だ。しかし少女はそれを全く気にする様子がない。

「そんな目で見たって逃がしてあげないよ。こっちも生活懸かってるからね。ルール違反したのは君なんだから、悪いのも君だよ。私を怨むのはお門違い」

 少女はそう言って悪魔の頭を指先で小突いた。抵抗できない悪魔はなされるがままだ。