「………………てめぇの言う典型的な男だとか何だとか………勝手にほざいてろ。………俺には関係無い。俺はてめぇの試験に付き合っているんじゃねぇ。………………俺はチェスをしに来たんだ」
そう言って、アベルは無礼にもテーブルに組んだ両足を投げ出した。
その衝撃でガシャン、と紅茶のカップが揺れ、チェス盤の駒達が一斉に跳び上がった。
「………そりゃあ勝ちたいさ。てめぇに勝てるなら何だってする。………………だがな………気に食わねぇんだよ……………こんなので勝ったって………まるで意味が無ぇ……!………俺は本当の意味での勝ちが欲しい。………………上辺だけの勝ちじゃなく……本当の……」
……意味のある、勝利を。
………与えられる勝利ではなく、己の手で掴み取る勝利を。
「………………この俺を典型的な殿方とやらと一緒にするんじゃねぇ。………胸糞悪い…」
テーブルから足を下ろし、スッとその場で立ち上がると、アベルは自分のキングの駒を引っ掴み………ただ無表情で口を閉ざして聞いているリネットに、無造作に投げ渡した。
弧を描いて飛んで来たそれを、リネットは反射的に両手でキャッチした。
………アベルの黒い駒。
黒光りするキングの駒は、リネットの手の平で大人しく横たわっている。
「………………今日はてめぇの勝ちだ。譲ってやるよ。………次でけりを付けてやる。だが………………また下らねぇ真似するんじゃねぇぞ……」
「………貴方、今日は饒舌ね」
「誰のせいだよ」


