―――……目の前に、キングを置いた。
互いの距離はゼロマス。
距離という距離は、無い。
本当に、目と鼻の先。
ターンがこちらに移った今………目の前のキングはもう手中にある様なもの。
さあ、取って下さい。
………両手を広げてそんな台詞を吐いている様な、目の前のキング。
………アベルは、食らわれに来たキング、彼女の要を見下ろしていた視線を上げ……向かいのリネットを見据えた。
「………何のつもりだ…。……これでお前は……負けだぜ……?」
「………そこ、そこなんですのよ……問題は……」
彼女は勢いよく扇子を開き、薄ら笑みを浮かべる口元を隠した。
アベルを映すその瞳は、いつもの様な冷めたものではなく………………笑っていた。とても…楽しそうに。
楽しそうに。
「………私が知りたいのは、この場面での貴方の行動。………次に貴方がどう出るか………それが知りたいの…」
「………………こんな馬鹿らしいやり方でか…?」
「そうよ」
……直後、リネットはソファから腰を上げ、テーブルに手を突いてずいっとアベルに顔を近付けた。
彼女のキング同様、目と鼻の先に、鋭利な眼光を投付けて来る綺麗な彼女の顔が迫ったが……眉をひそめたアベルは微動だにしない。
彼女の眼光を、そのままじっと受け止めた。
「………………手を伸ばせばすぐに掴める、勝利というものが……目の前にある…」


