白と黒の戦場は、物の数分で悲惨な舞台と化していた。
リネットの駒は次々に敵の前に躍り出ていき、キングを囲む盾代わりの兵士等の守りはあっという間に薄くなり………キングの姿がさらけ出されて行った。
アベルの陣地も、同様の事態が起こっていた。
なりふり構わず突進してくる敵の侵入を防ぐため、とにかくまばらに散る必要があった。
盤上の両端で、互いのキングは睨み合う。
「………世の中を我が物顔で闊歩する、威張り散らした殿方なんて………傲慢で……馬鹿で……」
……突如…。
あろう事か、リネットは厳かに座っていたキングの駒を徐に掴み………………前進させた。
チェスの中でキングという駒は、その首に勝敗が決まっている、最大の要だ。
だがキングは、盤上を最大でも二マスしか進めない、ある意味ポーンと同レベルの貧弱な駒だ。
そんな駒が前に出て来るのは、にじり寄って来た敵の駒から避難する時か……策のある時か。
………しかし先程からのリネットの行動は、とても策がある様には思えない。
「……………おい…」
「…………短気で………思い込みが激しくて……」
アベルの声も聞かずに、リネットはぶつぶつと呟きながら駒を進めて行く。
勿論、進めているのはキングただ一つだ。
物言わぬ彼女のキングは、ただひたすら敵陣に突貫していく。
…脅しのつもりで彼女のキングの進行を妨げるべく、傍らに駒を置いたが………邪魔だと言わんばかりにクイーンが襲って来た。


