ある偉人の言葉がありますの、と言って、リネットは一旦チェス盤から視線を外し、ソファに寄り掛かって息を吐いた。
「―――………お金のために結婚する男は悪い人、愛のために結婚する男は………愚かな、人………。………………………解釈は人それぞれね……」
無表情でリネットは冷たくなった紅茶を啜った。
乾いた舌に、仄かな苦みが広がった。
「………ギロチン女にはお似合いの言葉だな…」
何ともまあ、リネットらしいと言うか。
フッ、と苦笑を浮かべるアベルだったが、何処か遠くを見ている様な目で、向かいの彼女はゆっくりと首を左右に振った。
「………でも私………………この言葉も……半分しか信じていませんの。………………………お金だとか…地位だとか……欲のために結婚する方は極悪ではあるけれど……………………愛のために結婚する方は………必ずしも、愚かではありませんわ」
………予想外の発言に、アベルは一瞬呆気にとられた。
とにかく男に関しては全否定するリネットが………。まさかそんな事を言うとは。
「……あら…意外だったかしら?………………変でしょうね……私が言うと。……………だけど……愚かではないのよ。………だって……………………………………………………………お父様は、愚かな人ではなかったもの」
「………」
―――……遠い遠い昔。
リネットが三つになる前。
………父は、病で亡くなった。
妹のローアンが、まだお腹の中にいた時だ。


