…が、アベルも手慣れたもので、彼女の鋭利な眼光をいとも容易く無表情で受け流した。
「………今日の差し金には……大苦戦だったな」
……また睨んでくるリネットを傍目に、アベルはお構いなしに話を続けた。
「………財産や王位継承権目当て、もしくは本当に好意を寄せて来る男等を…ことごとく追っ払って…」
「………」
勝手に言ってろ、とでも言わんばかりに、リネットはしかめっ面で一つのポーンを前に進めた。
アベルのターンになるや否や、彼はナイトを掴み………。
………そのポーンを弾き飛ばす勢いで、ナイトの駒を置いた。
―――ガツン、と……乾いた音が盤上に響き渡り、白黒の戦士達を揺らした。
「―――……何が気に食わないんだ」
勢いに耐えられなかったポーンは盤上をゆっくりと転がり、舞台から落下した。
………物凄い勢いでナイトに取られてしまったポーンを一瞥し、リネットは、何処か真剣な面持ちのアベルに視線を向けた。
「………もう少し優しく扱って下さる?………このチェス駒、いい素材が使われているのだから。………………………急に何かしら。……漠然とした質問ね」
扇子を開けたり閉じたりしながら、リネットは目を細めた。
……しかし当の彼は何も応えない。
ただただ、チェス盤を見下ろすばかりだ。
「………気に食わない………そうね……気に食わないわ。…………何が…と聞かれて答えるならば………そう……」


