………先に述べた通り…リネットにとって今日の勝負は、負けられない。
この一戦に負ければ………死ぬしかない。
目くじらを立てて、チェス盤での激しい攻防戦を睨み付けるリネット。
あらゆる手を尽くし、何としてでもあそこで余裕をかまして居座るキングの首を……刎ねる!!
ポーンが一つ取られる度に、リネットの目には生身の兵士が悲痛な叫びを上げて切られ、砂埃を舞い散らせてどうと倒れていく幻覚が映った。
………それくらい、必死だ。
チェス盤しかみていない双方。
口をつけていない紅茶はいつの間にか冷めてしまっていた。
駒の数、配置を見れば……ほぼ、互角。
だが本の少しだけ、リネットが劣勢かもしれない。
……相手の、あの分厚いキングを守るポーンの盾を崩すにはどうすればいいか。
無闇に突っ込んでも取られるだけだし、こちらの守りが手薄になる。
「……………ちっ…」
動こうにも動けない、そんな睨み合いの戦いを見下ろし、リネットは扇子の内でギリリと爪を噛んだ。
火花が散り続ける接戦の最中で、死ぬ気のリネットに対し、アベルは何ともまぁ涼しい顔で頬杖を突いていた。
たかが一勝、されど一勝だが、貯金があるからといって調子に乗るんじゃないわよ…!とか毒づいていたリネットに………始終無言だったアベルが、不意に話し掛けてきた。
「………………しぶとい女だな…」
「話し掛けないでちょうだい」
気が散る、と殺意を秘めた目で一睨みした。


