彼の苛立ちは何故かは分からなかったが、特に気にせず、二人はそのままズカズカと部屋に入った。
…あの差し金の自己中男を早く追っ払うつもりが上手くいかなかったため、チェス盤の用意はまだしてなかった。
入るや否や、リネットは部屋の隅に立つ召使に振り返る。
「紅茶を持って来てちょうだい。チェス盤は私が用意するから…」
と言って、リネットは時計を一瞥した。……そう言えば……あまり時間が無い、とアベルは言っていた。
急ぐのならば、出すのはとりあえず紅茶だけで良いかしら。
「………なんだかあまり時間が無い様ね。……そんなにお急ぎなら、別に今日は…」
「チェス、置け」
………チェスはせずにそのままお帰りになってもよろしくてよ、ご苦労様なこと………と言いたかったのだが………あっさりと拒否された。
「………………貴方さっき………時間が無いって言って……」
「早く置けって言ってんだろうが。………………時間ぐらい延ばせる…」
………何か言っている事が矛盾している気がするのだが。
延ばせるならば、貴方が良いのなら………まぁ…構わないけれど。
(………………おかしな人…)
訳が分からないわ、と内心で悪態を吐きながら、リネットは怪訝な表情でチェス盤をテーブルに置いた。


