亡國の孤城 『心の色』(外伝)

気怠そうに欠伸を噛み殺し、アベルはのろのろと一段一段上ってきた。

「………ちょっと貴方、私を助けなさい」

この害虫から、と睨み付けながら言うリネットに、アベルは鼻で笑い返した。

「………十八番のギロチンも形無しか?…ふん……滑稽だな」

困り果てるリネットなど早々見れるものではない。
珍しいものを見るかの様な目で、アベルはこの二人を眺めながら真横を通り過ぎて行く。

「……最低ね貴方…」

後でしばく、と呟くリネットの前で、自己中男は急に喚き出した。

「何なんだ君は!!僕らの邪魔をする気なのか!!さてはこの見目麗しい姫を奪いに来た外道だな!!」

「いや、ここ階段だしさ。誰でも通るから。それにそんなだせぇ目的で来たんじゃねぇよこのカス。俺はチェスしに来たんだよ」


相手にしたくないと言わんばかりに顔を背け、アベルは広間の大時計をチラチラと見上げながら「…あんまし時間無ぇな……」と独り言を漏らす。


「何なんだねその話し方は!!まるで礼儀がなっていないではないか!!その様な体たらくを姫に見せるんじゃ…」

無視したアベルに苛立ちながら意見する自己中男。
マシンガンのごとき彼の終わりの見えない話が、また永遠と続くのかと思われた、その時。






……ぐらり、と自己中男の視界が一気に反転した。

高い天井、呆れ顔のリネット、無表情のアベルらがぐるんと一周する世界が、止めど無く続いていく。







………階段をごろごろと転げ落ちながら。

















アベルに足を引っ掛けられ、一瞬でリネットから引き離された彼は、「あ゛あああああ!?」と悲痛な叫びと共に階下に転がっていった。